2019.03.05

現地レポート:北米中西部での医療革新

※本ブログの内容は2018年に日経デジタルヘルスに弊社が寄稿した内容から一部引用し、編集したものを含んでおります。
日経デジタルヘルス「イスラエルと日本のスタートアップ、現場を知るため米国へ」(2018年12月12日)
https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/100200150/100200001/?ST=health

 

みなさん、こんにちは。JOMDDシリコンバレーオフィスの上島です。
今回は、昨年夏に開催した北米中西部に位置する病院訪問ツアーについて現地レポートをお送りしたいと思います。
日本のスタートアップ等の海外展開を支援する弊社では、日本企業や外国企業の米国などにおける事業展開支援等をサービスとして提供していますが、本ツアーはその一環で、12社のイスラエル企業と日系企業が、最先端医療革新に挑んでいる北米中西部の大病院4施設を訪問するというものです。本ツアーは、弊社、およびイスラエルの医療系アクセラレーターであるmHealth Israel(mHealth Israelの日本における活動は、mHealth Japanとして弊社が担当し、昨年は日本でのイスラエルセミナーの開催等を実施)の共同企画であり、ニューヨークのイスラエル領事館からの協力も得て開催しました。

今回訪問した4病院はいずれも各都市の医療拠点となっている大型医療機関で、医療サービスのみならず健康保険サービスも提供するなど、4病院総計の規模は、入院患者年間約57万人、医療従事者16万人、医療売上は約3兆円になります。イスラエルと日本の各社はDigital Health/HIT(医療情報技術)をテーマに製品紹介をしたほか、各施設にて医療技術改革を推進している経営層と面会し、施設での取り組みについてヒアリングを行いました。
本ブログでは、訪問を通してわかった各病院のオープンイノベーションへの取り組みと、その背景についてご紹介したいと思います。

さてまずは米国の医療費について見てみます。米国医療費の肥大化については既に社会問題になっていますが、高コスト体質の問題は根強く、2017年の医療費は約$3.5兆ドル(約380兆円)で米国GDPの2割弱を占めており、主に高齢者層人口増加が牽引し2026年までCAGR5.6%程度で膨らむことが推測されています。

米国医療費推移
グラフ1:米国医療費推移
( Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS) ¹ データよりJOMDDにて作成)

 

この医療費の増加を背景に、今回の訪問先の1つであるHenry Ford Innovation InstituteのCEO・Dr.Dulchavskyは、患者に提供する価値を向上させるために、医療の質と安全性のみならず、患者側の満足度を改善していくことが必要であり、その意味でも医療費用抑制に取り組むことが重要だと述べていました。(図1)

Henry Ford Health Institutionによる医療サービス価値評価基準
図1:Henry Ford Health Institutionによる医療サービス価値評価基準
(Henry Ford Innovation Instituteの資料よりJOMDDにて作成)

また、外的要因により病院経営は変化期にあると説明をしていました。例えば、米国ではCenter for Medicare and Medicaid Service(CMS: アメリカ厚生省に属する、公的医療保障制度の運営主体)や民間保険会社など医療費の支払い側が各病院を医療サービスの質の観点から総合的に評価しており、評価結果により支払い額に差が出てくる仕組みになっています。その上、CMSが管理するHospital Value-Based Purchasing(VBP)では、全米3000以上の施設が採点評価の対象となっていますが、その結果が一般公開されています² ³ 。特に彼が言及していたのは、再入院件数による減点でした。このように外部の目にさらされる形となっているために、サービスの価値向上のためのアイデアを病院は民間企業に求めており、様々な角度から改善努力をしています。そして、特に今回はIoTを用いたサービス提供に関する話題が目立ち、期待の高さを感じました。
こうした外部機関からの評価の他には外部要因として、保険制度の多様化、患者側の健康に対する意識向上、医療データのデジタル化、遠隔治療需要等も挙げられていました。

こうした提供する医療サービスの価値向上のために、各病院が様々な取り組みを実施していますが、共通言語としてPopulation Health Management(PHM)の重要性が挙げられています。
PHMとは、治療を中心とした従来型の医療サービスだけではなく、健康増進や予防、予後に対処するなど、特定地域での長期的な医療戦略を通じて、慢性疾患等のリスク低減、QOL改善を目指しながら、経済性を追求するというものです。このPHMを遂行する中で医療IoT化が進み、大量のデータを扱うインフラ整備と、データを有効活用する分析ツールや医療アプリサービスの充実化が求められています。
このPHMを実現するためのモデル図(図2)をNCQA(National Committee for Quality Assurance)が示しています。従来は医療機関が中心となっていた体制を、患者・被保険者に置き換え、ある課題に対して取り巻く周辺環境を特定し、共通目標を掲げた上で相互連携していくことで、医療費全体の最適化ができるとしています。
The NCQA PHM Model

図2;The NCQA PHM Model
(2018年PHM Resource Guide by NCQA.⁴ より)

そしてPHM充実化の重要要素の一つである医療データのデジタル化ですが、今回の訪問施設のほとんどが、EHR(Electrical Health Record)にEpic Systems社のEpicを基幹ソフトとして使用しており、今後米国で病院・保険会社へ医療IoT製品やサービスの展開を考えるにあたり、Epic等のEHR基幹ソフトとのデータ互換性は、開発における必須要素だと痛感しました。また、Ohio State UniversityのWexner Medical Center・CIOのTeater氏は、モバイルアプリによる患者・被保険者へのサービス提供も重要としており、データ活用に対する関心の高さを伺うことができました。

当方は在米歴約20年になりますが、主に西海岸に生活基盤を置いてきたため、恥ずかしながら北米中西部はほとんど知らず、今回の訪問を通して中西部での最新の医療開発の取り組みを知りとても刺激を受けました。

最後になりますが、今回訪問した各施設での取り組みについて、簡単ですが表にて纏めておきますのでご参考いただければ幸いです。

表1:米国病院施設での医療革新に対するアプローチ
(病院提供資料等をもとにJOMDDが作成)

米国病院施設での医療革新に対するアプローチ

 

¹ Centers for Medicare & Medicaid Services, The Center for Consumer Information & Insurance Oversight, “National Health Expenditure Data”,2018年, https://www.cms.gov/research-statistics-data-and-systems/statistics-trends-and-reports/nationalhealthexpenddata/nhe-fact-sheet.html (最終アクセス2019年1月18日)
² U.S. Centers for Medicare & Medicaid Services, “Hospital Compare”, https://www.medicare.gov/hospitalcompare/search.html (最終アクセス2019年1月18日)
³ Centers for Medicare & Medicaid Services, “Hospital Quality Initiative > Hospital Value-Based Purchasing”, https://www.cms.gov/Medicare/Quality-Initiatives-Patient-Assessment-Instruments/HospitalQualityInits/Hospital-Value-Based-Purchasing-.html(最終アクセス2019年1月18日)
⁴ National Committee for Quality Assurance, “PHM Resource Guide by NCQA”,「The NCQA PHM Model」 2018年, p11