2015.06.25

最先端医療として注目されるプロバイオティクス(後半)

皆さん、こんにちは。代表の内田です。
前回は腸内細菌に関するお話をしました。今回はその続きで、科学の進歩によって注目されるプロバイオティクスの可能性についてお話いたします。

病気と腸内細菌叢

技術の進歩により腸内細菌叢のことが解明されるようになればなるほど、様々な疾患に腸内細菌叢が関わっていることが知られてきました。

炎症性腸疾患には、クローン病や、安部首相が罹患していることでも有名な潰瘍性大腸炎などがあります。これらの病気の原因は完全には解明されていないものの、もともとの遺伝的要素に加え、環境因子(乳児期の抗生物質摂取、食事、人工乳か母乳かなど)が加わって、腸内細菌に対する過剰な免疫反応を起し、それが炎症を引き起こすと言われています。実際、腸の途中で人工肛門を作り、腸に便が流れないようにすると病状が軽快したりします。また炎症腸疾患にかかっている人は健常者と比べ特定の腸内細菌叢が低下していることもわかりました。

はっきりした器質的病巣(傷ついた外面)がないのに下痢、便秘などの腸の機能に問題が起きる過敏性腸症候群でも腸内細菌叢に特徴があると言われています。どのような菌種や方法が適切かはまだはっきりはしていませんが、過敏性腸症候群にプロバイオティクスが有効であることは明らかになりました。

 

治療としての糞便の摂取

病気を直すために便を摂取する。と言うと、いささか衝撃的ですが、最近はこの方法が科学的に盛んに研究されています。この方法はfecal microbiota transplantation (FMT)と言われています。

FMTはそもそも何世紀も前から馬の慢性下痢など獣医領域では有効性が知られていたそうです。人でも4世紀に晋で食中毒や重度の下痢に用いられていました。欧米でも16世紀に行われていたのですが、細菌学の進歩や抗生物質の登場でFMTは消え去ってしまいました。ではなぜ細菌またFMTが脚光を浴びているのでしょうか。抗生物質摂取により腸炎を起こしてしまう、抗菌薬起因性腸炎という病気があります。この病気は抗生物質により腸内細菌叢がガラッと変わり、普段は大人しくしているクロストリジウム・ディフィシル(CDI)という細菌により腸炎が起こります。CDIもまたある種の抗生物質で治るのですが、やっかいなことに薬剤に抵抗力を持ったCDIが現れ、再発に苦しむケースが出てきたのです。このため、1985年にEisemanという医師らが再びFMTを試すようになりました。そしてついに2013年に医学論文で最も権威が高い学術雑誌とも言われているNew England Journal of MedicineにVan NoodらのFMTに関する研究論文が発表され、一気に有名になりました。FMTは健常者の便を利用しますが、FMT後には異常だった腸内細菌叢が摂取した健常者の便のとそっくりの細菌叢に変化します。

さて、便の摂取と言っても、まさか口から便を摂取するわけではありません。胃の奥へチューブを挿入して投与するか、あるいは大腸ファイバーを用いて投与します。最近は大腸ファイバーを用いることが主流になりつつあります。その辺りはご心配なく。。。

 

その他の病気と腸内細菌叢

肥満や糖尿病にも腸内細菌叢が関係していることがわかってきました。腸内細菌叢の乱れにより短鎖脂肪酸の合成が低下し、腸の一番内面の層(腸上皮バリア)が破綻し、それにより腸内のグラム陰性桿菌が産生するリポポリサッカライドが血中に入っていまいます。このリポポリサッカライドは体に炎症を引き起こし、肝臓や骨格筋に悪さをし、インスリン抵抗性を増加させ、肥満や糖尿病に至るというメカニズムです。

それにも関連してアルコール性ではない肝脂肪に腸内細菌叢の乱れが関与しているという研究結果もあります。

高血圧との関わりが深い動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞の原因になります。この動脈硬化にも実は腸内細菌叢が関係していることが最近わかってきました。魚油やオリーブオイルなどを摂取すると抗酸化作用があって体に良いと言われています。この抗酸化物質は色々な種類がありますが、中には腸内細菌が作り出すものがあります。そして、動脈硬化の患者の腸内細菌叢を見てみると抗酸化物質を作ってくれる細菌叢が少なく、血中の抗酸化物質濃度が低くなってしまっていることがわかりました。これにより動脈硬化になりやすくなっているのです。

この他、慢性関節リウマチや喘息など、免疫が関与する病気にも腸内細菌が大いに関係していることが次第に明らかになっています。

さらに、多発性硬化症やギランバレー症候群など一見、腸内細菌とは無関係と思えるような神経系疾患も、免疫機序を介して腸内細菌が発症と関係しているかもしれないことがわかりつつあります。

 

プロバイオティクスと未来

プロバイオティクスは”宿主に保健効果を示す生きた微生物、またはそれを含む食品”と定義されています。これまで、すでに科学的に証明されている健康表示には以下の様なものがあります。

  • ロタウィルス下痢症
  • 抗生物質誘導下痢症
  • 乳糖不耐症
  • 乳児食餌性アレルギー症
  • 整腸作用

そしてこれから研究が進みそうなものに下記のようなものがあります。

  • 発がんリスク軽減
  • 免疫力増強
  • 花粉症・アレルギー低減
  • 血圧降下作用
  • インフルエンザ発症予防
  • 胃内ピロリ菌抑制
  • 炎症性腸炎
  • コレステロール低減
  • 乳児および児童の呼吸器感染症抑制
  • 口腔内感染症の低減 など

 

このように腸内細菌叢やプロバイオティクスは今後ますます、そして急速に研究が進み、私たちの身近な存在になるでしょう。

さて、今回のブログの内容のうち科学的な内容のほとんどは本年1月に発刊された日本内科学会雑誌から引用しています。この号は「腸内細菌と内科疾患:その最新情報」と題して、腸内細菌叢やプロバイオティクスを特集しています。医学会でもこのように最先端の医療として注目されているのです。この特集を読んで印象に残った言葉に、滋賀医科大学消化器内科 安藤 朗先生の「腸内細菌を1つの臓器と考える時代が到来した」というものがあります。近い将来、誰もが自分の腸内細菌叢を遺伝子検査から知るようになり、それを元にプロバイオティクスや薬を選択する時代がおそらくやってくるでしょう。外科や循環器内科という診療科のなかに、“腸内細菌科”という診療科ができ、腸内細菌叢の専門医が現れることも容易に予想されます。

JOMDDは医療機器の開発に注力していますが、本当に優れた医療機器を世に送り出すためには、優れたその他の医療を知らなくてはなりません。そのためにも、こうした一見医療機器とは関係がないけれど注目されている最新の医療について、これからも着目していきたいと思います。

それではまた次回。